トンネルを抜けると、
    そこはヴァナディールだった…。

いつものように、出勤中の車内で私は寝ていた。
乗り換え駅のちょっと手前に短いがトンネルがあり、少しの間だが車内が暗くなる。そのお陰で、私はいつも乗り越さずに済んでいる。車内が暗くなり、私はいつものように起きようとする。

心地よい風が頬を撫でる。
草木の濃い匂いがする。
暖かい日差しが気持ちよい。

 (ちょっと待て。)

私は都心に向かって、電車に乗っていたはず。
車内の窓は開いていなかったのに、どうして風を感じる事が出来る?
高層ビルが立ち並ぶ街で、どうして草木の濃い匂いがする?
自分で窓にブラインドをしたのに、どうして日差しを感じる事が出来る?

私は、慌てて目を開けた。
そこは、私がよく知っている風景だった。

 『ロンフォール?なのか…』

私は呟いていた。
正直、自分で言った言葉の意味を理解出来ていなかった。

そう、確かに私はこの場所を知っている。だが、それは現実世界のそれでは無く、ファイナルファンタジーXIというネットゲームでの仮想世界だ。

 『ははは…』

私は、しばし呆然と立ち尽くしていた。
何も考えられなかった。人は、理解し難い事が目の前で起こると、ただただ立ち尽くすだけになる。そんなシーンを映画でよく見たものだが、まさか自分が実演する事になろうとは…。

 『君、大丈夫?』

1人の青年が、話し掛けてきた。
私は、反応しない。というより、私に話し掛けられた言葉だと理解していなかった。

 『お〜い 返事しろぉ!!』

私の肩に手を触れて、体を揺らす。

 『あ、あぁ、ごめん 大丈夫だよ』

私の肩に乗せられた手に触れて、相手の方へ向き直る。

 『こんなとこでボーッとしてると、オークに襲われちゃうぜ』

 (オーク…ね やっぱここはヴァナディールなのか)

 『ホントに大丈夫? またボーッとしてるけど』

私は、彼の質問には答えず問いかける。
 
 『ここって、ロンフォール…なのかな?』

私の心の中で、NOと言ってくれるのを期待していたが、
彼はきょとんとして、すぐにあっさりと答えた。

 『そう ここはロンフォール あそこに見える城塞都市がサンドリアさ』

淡い期待はあっさりと裏切られ、
私はその場で意識が遠くなっていくのを感じた…。

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