私はベットから体を起こした。

 (悪い夢を見た…)

今まで見ていた、悪い夢を追い払うかのように頭を振りながら、いつもと同じ動作でベットから降りようとする。
   
       ゴツ

壁に足をぶつけてしまった。
いつも降りている方には壁があった。

 (まさか!?)

はっきりと意識を取り戻した目で辺りを見回す。
15年愛用しているコンポも、無造作に飾られているガンプラの姿もそこには無かった。私の記憶が正しければ、ここはサンドリア城下町・猟犬横丁の一室だろう。

 『お、気が付いた?』

暖かいミルクが入った木製のコップを2つ、これまた木製のお盆に乗せて、
彼が入ってきた。

 『いきなり気を失うもんだから焦ったよ』

と言いながら、
持ってきたお盆を木製の机に置き、コップを1つ渡してくれた。
私はそれを受け取り、

 『ありがとう』

と言葉少なに返す。(我ながらかなり嫌な奴に見えてるに違いない…。

 『君も冒険者かい?』

自分の分のコップを取りながら、それでも彼は聞いてきた。

 『………』
 (冒険者か…)

私もファンタジーの世界に憧れた事が無いわけじゃない。漫画やゲームで繰り広げられる壮大な世界で、剣や魔法を駆使し、仲間と共に冒険するという叶わぬ夢を見ていた時期もある。
当時なら、諸手を上げて歓喜していたに違いない。しかし、今の私は少し成長し過ぎたようで、自分の限界というものを知ってしまっている。剣道1級の腕前でモンスターと渡り合えるわけがない。ましてや、魔法なぞ詠唱出来ようはずもない。

 『いや 冒険者じゃないよ』

過去の自分の夢を全否定する。

 『そっか』

彼は短く、そう答えた。
私は、渡されたコップを両手で抑えるように持ち、ずっとミルクの表面に映る自分の顔を見ていた。彼もそれから何も言わずに、ゆっくりとミルクを飲んでいる。

どれくらい時間が過ぎただろうか…。

 『私でも冒険者になれるだろうか?』

相変わらずコップを見たまま、私は呟いていた。

 『もちろんなれるさ』

彼は、ミルクを飲み干したコップを机に置きながらそう言った。

 『さぁ 行こうか!』

そう言って、彼は手を差し出す。
その手をがっちりと掴んで、私は答えていた。

 『ああ 行こう!』

その目には、もう迷いは無かった。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

この日記について

日記内を検索